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東京地方裁判所 昭和40年(合わ)52号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、当裁判所の認定した事実

(一) <前略>被告人は、昭和四〇年二月一三日午後八時二五分頃、東京都北区赤羽台三丁目一六番地ノ一一号青果商大和田庸夫方居宅東側空地において、先に被告人が同人方居宅前の木箱を蹴つたことで、同人妻大和田勝江から一、二言注意されたことを想起して憤慨し、飲酒酩酊の勢いも加わつて、同女らに対するいやがらせの気持から、右大和田庸夫方居宅の東側便所下見板に接着して積み重ねられていた竹籠を焼燬しようと考え、付近空地に放置されていた約二頁分の新聞紙一枚(その一部分が昭和四〇年押第五六四号の二として押収されている)。をひろうと、所携のマツチ(押収番号同号の一)で、これに点火し、これを右竹籠(同号の三)内に投げ入れたが、すぐ通行人酒井守に発見消火されたため、右新聞紙の約半分を焼燬し、一個の竹籠の極く一部を燻焼したに止まつたものである、との事実を認定することができる。

三、当裁判所の認定事実に対する法律的評価

(一) 当裁判所が認定した前記二(一)の事実について、被告人の刑事責任の有無を検討してみると、被告人の行為が刑法第一〇八条及び第一〇九条に該当しないことは明らかであり、竹籠を燻焼させた点についても、それが独立燃焼の程度に至らなかつたものであることが明らかであるから、刑法第一一〇条第一項の放火罪の未遂に該当するが、その処罰規定を欠く現行法のもとにおいては、これを処罰することはできない。

(二) そこで、次に、前記の如くして約二頁分の新聞紙の半分位を焼燬した行為が同法第一一〇条に該当するかどうかを考察することとする。

刑法第一一〇条は、形式上その客体につき同法第一〇八条及び第一〇九条に記載した以外の物であれば、何ら制限していない如くであるが、同条の放火罪は、いわゆる具体的危険犯であつて、公共の危険の発生を犯罪成立の要件とし、右結果の発生しない場合にはこれを処罰しないと共に、その客体を焼燬するに至らなかつた場合、即ち未遂の場合にもこれを処罰する規定をおいていないこと、同条の客体たる「物」は、刑法第一一六条第二項の客体である(刑法第一一〇条に記載した)「物」と同一であること、軽犯罪法第一条第九号は、別に、「相当の注意をしないで、建物、森林その他燃えるような物の附近で火をたき、又はガソリンその他引火し易い物の附近で火気を用いた者」を処罰する規定をおいていることなどを対比考察してみると、刑法第一一〇条第一項(同条第二項も同じ)にいう「前二条ニ記載シタル以外ノ物」とは、公共危険犯としての観点から考えて、それ自体を焼燬することに意味のある物をいい、マツチ棒や極く少量の紙片の如く、他の物体に対する点火の媒介物として用いられていて、それ自体を焼燬することによつては、一般的定型的に公共の危険の発生が予想されないような物は、含まないものと解するのが相当である。そして右の如く解するならば、本件において被告人が焼燬した新聞紙の如きもその量及び性質から考え刑法第一一〇条にいう「前二条ニ記載シタル以外ノ物」に該当しないこととなるから、その余の点を判断するまでもなく被告人に刑法第一一〇条第一項または第二項の刑責を問う余地はない。(外池泰治 太田浩 堀内信明)

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